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第16話 削られていくもの

Author: marimo
last update publish date: 2026-06-17 22:58:41

 最初に失ったのは、時間だった。

 俊哉は、仕事よりも玲奈との時間を優先するようになっていた。

 昼間から頻繁に連絡を取り合い、打ち合わせの合間に抜け出し、夜はそのまま外泊。

 仕事の予定は、いつの間にか「合間に入れるもの」に成り下がっていた。

 「今は踏ん張りどころだろ?」

 そう言ってくれた古参の取引先の言葉も、今の俊哉には雑音でしかなかった。

 《Kurosaki Creative Works》は、もともと俊哉個人の人脈で回っていた会社だ。

 彼が動かなければ、歯車はすぐに狂い始める。

 締切の遅れ。

 連絡の行き違い。

 確認不足によるミス。

 「最近、黒崎さん、雑じゃない?」

 その一言が、冗談めかして、だが確実に増えていった。

 一方で、現実的な問題が、確実に迫っていた。

 ――久遠ひかるへの賠償請求。

 分割とはいえ、月々の支払い額は重かった。

 通帳の数字が減っていくのを見て、俊哉は舌打ちする。

 「……あいつさえ、黙ってればよかったのに…」

 だが、文句を言っても、数字は減る一方だった。

 夜は、相変わらず玲奈と遊び歩いていた。

 ブランド物や宝飾品をねだられること
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     最初に失ったのは、時間だった。 俊哉は、仕事よりも玲奈との時間を優先するようになっていた。 昼間から頻繁に連絡を取り合い、打ち合わせの合間に抜け出し、夜はそのまま外泊。 仕事の予定は、いつの間にか「合間に入れるもの」に成り下がっていた。 「今は踏ん張りどころだろ?」 そう言ってくれた古参の取引先の言葉も、今の俊哉には雑音でしかなかった。 《Kurosaki Creative Works》は、もともと俊哉個人の人脈で回っていた会社だ。 彼が動かなければ、歯車はすぐに狂い始める。 締切の遅れ。 連絡の行き違い。 確認不足によるミス。 「最近、黒崎さん、雑じゃない?」 その一言が、冗談めかして、だが確実に増えていった。 一方で、現実的な問題が、確実に迫っていた。 ――久遠ひかるへの賠償請求。 分割とはいえ、月々の支払い額は重かった。 通帳の数字が減っていくのを見て、俊哉は舌打ちする。 「……あいつさえ、黙ってればよかったのに…」 だが、文句を言っても、数字は減る一方だった。 夜は、相変わらず玲奈と遊び歩いていた。 ブランド物や宝飾品をねだられることは減ったが、外食は続いた。 無理をしてでも、以前と同じ生活水準を保とうとした。 「最近、景気悪いの?」 玲奈が、グラスを揺らしながら聞く。 「そんなことない」 即座に否定したが、声に力はなかった。 次に失ったのは、信用だった。 「今回は、見送らせてください」 そう言われたとき、俊哉は一瞬、意味が分からなかった。 「え?」 「黒崎さん、最近ちょっと不安定で……」 遠回しな言葉だったが、要点は一つ。 ――任せられない。 電話を切ったあと、俊哉はしばらく動けなかった。 (なんでだ……俺は、何も変わってない) そう思いたかった。 だが、変わっていたのは、周囲の目だった。 そして、最後に削られ始めたのは――世間だった。 業界内の噂は、早い。 「黒崎、最近ダメらしい」 「女に溺れてるって」 どれも、致命傷ではない。 だが、少しずつ、確実に首を絞めていく。 夜、自室で一人、請求書を眺める。 残高は、また減っていた。 (……ひかる……) 久遠ひかるの名前が、頭をよぎる。 殴っても、怒鳴っても、何も言い返さなかった女。 その女が、有名女優だったなん

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